ウェントワース女学院で起こる日々の出来事・・・
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調律


ザ・ロイヤル・スクール・オブ・エバーグリーン…。

我が校の姉妹校とは言え、その校風はあまりに奇抜。

寮ごとに雰囲気や寮訓が違うのはよくある話だ。

しかし、まるで生徒の方が寮の色に染まっていき、争う姿は…さながら軍隊の様ではないか。


ティーパーティーの準備で浮き足立っている生徒たちに悪影響を起こす前に、対策を練るとする…

「せっかく生徒たちがパーティーの準備をしているというのに、そんなに仏頂面していると、生徒たちから言われてしまいますよ?
『ヘア・フォイルナーには楽しむという感覚が無いのですわ』、ってね…?」


…お前か。ムッシュ・グランヴァル。

「結構。今週末に開催されるのは生徒たちのためのパーティーであり、我々教師が楽しむものではないだろう。」

至極真っ当な意見だと思うのだが、彼はつまらなそうに首を傾げた。

「うーん…、生徒たちに寄り添い、背中を押してあげるのも教師の使命だと思うんですが…。ほら、この陽気に彼女たちの陽気が重なって…。そんな気分を後押しする…旋律で表すなら、ほら、こんな感じで。」

突然、手に持っていたヴァイオリンを弾き始める。
聴いたことはあるが、題名は思い出せない。


だが…、

「芸術は好きではないが、演奏ひとつ、出来ないわけではない。貸してみろ」

昔の記憶…譜面を頼りに旋律を奏でる。
さぞ驚いた顔をするものだと思ったが、彼は複雑な顔を浮かべた。

「そうだね…、意外ではあったけれど…。僕の感覚からいうと『つまらない』、だね。」

ああ…、それか。
昔からそう言われ続けてきた。楽譜には忠実なはずなんだが…。

と、言ったところで、ふぅ、と溜め息を吐かれた。やはり腹が立つ。

「フォイルナー、音楽は芸術ですよ?型に嵌めただけのものが面白いはずがない。」

天に向かって指揮棒を振るような仕草を見せながら、続ける。

「100点は満点じゃないんですよ。思いもよらず120点、200点のモノに出会うから人は芸術に感動する…、と、いったところでしょうか。」

相変わらず理解し難いが…評価を点数に置き換えるのであれば、いつもの素っ頓狂な
話より少しは聞く余地がありそうだ。

「そうですね…例えば、Aという音楽家がいたとします。Aの創る音楽はとても独創的でしたが、Aはその溢れる感性の代わりに楽譜というものに自分の音楽を閉じ込めることをひどく嫌い、ただの一度も自ら楽譜を起こすということをしませんでした。そこで、彼自身が信頼を置く別の音楽家BとCに依頼をして自らが演奏した楽曲の楽譜を書かせたんです。」

…例え話か、作り話か、実話なのかはっきりしないが…、

「出来上がった楽譜を見て、Aはとても満足しました。素晴らしい、二人ともよくぞ私の魂を汲み取ってくれた、とね。…しかし、Aの楽曲はBの楽譜であり、同時にCの楽譜でもあるのですが、Bの楽譜とCの楽譜は同じではありませんでした。」

A=Bであり、A=Cであるのに、B=Cではないと…?
やはり論理性の欠片もない馬鹿げた話だった。

「それが芸術ってものですよ、フォイルナー?あぁ、あと…、調律、ずれてましたよ?そのバイオリン。」




……………お前が持っていたヴァイオリンなのだが………もう、何も言うまい。
13:00 (11・13ago)数学教師 グレゴリウス・ローゲル・フォイルナー -
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実に美しい。

いや、答案用紙の話だ。
どんな時であれ、満点というものは良い。
用意された設問と答えに一つも矛盾が生じない答案用紙というものは、
私の心を実に穏やかな状態にしてくれる。
それもこれも、定められたロジックを解き明かすことにより
必ず解答に辿り着く、数学ならではの快感と言えよう。

今年もまた、満点を取ることができる生徒がいることに誇りを感じ、
私はできるだけ正確な円に近い、正解を表す記号を書き加えるのだ。


「へぇ、満点かい?すごいねぇ」


その一言で穏やかな時間は終わりを告げた。
音楽教師、ジュール・ベランジェ・グランヴァル。
ロジカルと正反対の位置にいるこの男は、はっきり言って苦手だ。


「それにしても、いつもながらヘア・フォイルナーは綺麗なマルを描くよねぇ。
 まるで測ったようにさ!思わず感心しちゃいますよ」


人を馬鹿にしているのか何なのか、敬語とそうでない言葉を織り交ぜる。
そもそも私の方が年上なんだが。
とにかくこの男と関わるとろくな事がない。
多少苛立ちを露にしてペンの音を大きくさせたところで、
神経がないのか一般の感性を持ち合わせていないのかこの男には何の効果もない。
とにかく無視を押し通して他に興味が移ることを待つのが一番の解決法だ。


「ん〜、でも、これだけだと無機質でつまらない答案だよね。
 せっかく満点を取ったんだから、もっと特別な感じが欲しいなぁ・・・
 あ、そうだ!ヘア・フォイルナーの描いたこのマルをぐるぐるにして、
 その周りを輪っかで囲ってあげて・・・・!
 できた!名づけて、花マル!!可愛いでしょう!?
 これを更に可愛くするために僕特製のウサギのイラストを・・・・」


なっ、貴様!やめろぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!
10:48 (11・13ago)数学教師 グレゴリウス・ローゲル・フォイルナー -
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